よりよく生きるためのウェルネス・コラム
毛細血管血流から考察する“体温コントロール術”
血管の構造
心臓から出た血液は、大動脈-中・小動脈-細動脈-毛細血管―細静脈-小・中静脈-大静脈と経て、また心臓へと戻ってきます。
大動脈 | 小動脈 | 細動脈 | 毛細血管 | |
血管の直径 | 30㎜~16㎜ | 1~0.3㎜ | 0.3㎜以下 | 0.01~0.005㎜ |
毛流速度 | 20~50㎝/秒 | – | – | 0.5~0.1㎝/秒 |
一本の毛細血管は極めて細いですが、本数が圧倒的に多いため血管の総断面積比では大動脈の600~1000倍となり、そのために血流が遅くなっています。
血管の構造は基本的に
①薄い内皮細胞と少量の結合組織からなる内膜
②平滑筋と弾性繊維からなる中膜
③結合組織からなる外膜
という3層の構造になっています。この平滑筋は輪ゴムのように螺旋状に取り巻いており、交感神経の働きで血管を収縮・拡張させています。しかし、毛細血管は1層の内皮細胞と基底膜だけからなっており、この平滑筋がありませんので、血管が収縮・拡張するということはありません。毛細血管の血流は、その手前の細動脈によってコントロールされています。
微小循環
血液の主な働きは
①肺から酸素を、消化器から栄養素を、内分泌腺からホルモンを血管内に取り入れ、全身の組織細胞に運搬する。
②組織細胞で生まれた代謝産物、二酸化炭素や老廃物を体から排出するために肺、腎臓などへ運搬する。
③体温を調節する。
ということになりますが、これが微小血管系の細動脈―毛細血管―細静脈という循環において行われます。
現在は微小血管系の血液の循環のみならず、組織液から組織細胞までのやり取りを含めて微小循環といっています。毛細血管は、薄い内皮細胞のシートで作られた円筒ですので、酸素、栄養素、ホルモンなどは血管の外の組織液に浸み出し、二酸化炭素や老廃物は血管内に浸みこんできます。この物質交換のため毛細血管の血流は遅い必要があるわけです。とはいえ、遅すぎるのも問題です。微小循環での血行障害は細胞組織の機能不全を起こすこととなり、生命の維持に直接関わってきます。
外気温が、いかに変化しようとも体が正常な状態においては体内部の体温(深部体温)は37℃前後に保たれています。この調節をしているのが皮膚表面近くの毛細血管の血流、特に手足の毛細血管の血流です。体温は血液の温度により均一に調節されていますので、脳にある内部温受容器が血中温度の低下を感知し、皮膚表面にある外部温状容器が血中温度より低い外部温を感知すると、毛細血管手前の細動脈を収縮させることで血流を低下させ、外部温によって血中温度が下がらないようにします。血液は細動脈と細静脈を直接繋いでいる動静脈吻合と呼ばれるバイパス血管を通り静脈へ流れていきます。逆に血中温度の上昇を感知すると細動脈を拡張し毛細血管の血流を増加させることで外部に熱を放散させ、血中温度を下げるようにします。
研究(「光コヒーレンストモグラフィを用いたヒト指細動脈の断層イメージング」生体医工学44巻4号(2006年12月))では、4分間に3回の指細動脈の収縮と拡張の繰り返しが観察されています。その周期は心拍とは関連なく不規則であり、交感神経の働きによるものです。このことから体温調節のための皮膚毛細血管の血流は頻繁に調節されていることがわかります。
細動脈での血流コントロール
毛細血管手前の細動脈は直径0.05㎜以下ほどになっていますが、それでも毛細血管から比較すると数倍、直径の太い血管です。血管の太さと血流量の関係は血管の半径の4乗で変化していきます。つまり直径0.05㎜の血管は0.01㎜の血管の実に625倍もの血流量があるわけです。ですから細動脈の微小な収縮と拡張でその先の毛細血管の血流量は大きく変化します。毛細血管は拡張しませんから、細動脈が拡張して血流量が増えるということは血流速度が速くなるということになります。
その速度変化は細動脈の拡張と同時(瞬時)に起こります。仮にその拡張した細動脈が毛細血管と距離的に離れているものであったとしても、それが繋がっているものであるならば毛細血管の血流は瞬時に変化します。このことは水道管の蛇口に繋げているホースを考えると分かります。最初にホースに水を流した時には蛇口を開けても水が先端から出てくるまでに少し時間がかかります。まずホースの先端まで水を満たす必要があるからです。しかし、もうホースに水が満ちている場合は、蛇口を開けた瞬間にホース内の水が押し出されホース先端から水が出てきます。
血管内には空間なく血液が満ちていますのでこれと同じことが起こるわけです。逆に細動脈の微小な収縮で瞬時に毛細血管の血流は大きく低下してしまいます。
細動脈を収縮・拡張させる要因
3層という血管の構造は大動脈から細動脈まで基本的に同じですが、細くなるに従って層が薄くなってきます。細動脈になるとそれまでしっかりしていた外膜は薄くなり、中膜の弾性繊維も無くなり1~2層の平滑筋が薄い内膜の筒に輪ゴムのように取り巻いて、そこに自律神経の交感神経が伸びてきています。交感神経の活動が高まると平滑筋は細動脈を締め付けるように収縮して、それで血流を低下させたり止めたりします。そのためそれに繋がる毛細血管の血流が低下したり止まったりします。活動が下がると平滑筋は緩んで毛細血管の血流が再開したり増加したりします。
皮膚表面近くの毛細血管に繋がる細動脈は、主に体温調節のために交感神経によって自律的に頻繁に収縮・拡張が繰り返されていますが、しかし何らかの要因により交感神経が高まってしまうと、体温調節とは関係なく収縮してしまいます。交感神経の機能は「闘争か逃走か」と総称されるように、精神的や身体的に活発な活動をする時に交感神経は高まります。運動をしている時は、心臓からの拍出血液量が増えるため皮膚の血液量も増えてはいますが、それでも皮膚の細動脈は収縮していて、筋肉への血液量を増やしています。しかし、体温が上昇してくると体温調節のために細動脈は再び拡張し、皮膚血流再配分が行われます。
身体的には活動していなくても精神的に緊張状態にあると、重要な臓器に血液を送るために皮膚の細動脈は収縮してしまいます。現代では日常生活において生命の危険を感じるような出来事は少ないですが、精神的緊張に対する交感神経や体の反応は実際に生命が危険な場合と同じものになります。また、災害などによって多数の負傷者が同時に出た時に、治療の優先順位を決めることがありますが、その時には皮膚が冷たくないかというチェックもされます。外見的には分からなくとも体内部で多量の出血があると、重要な臓器への血液量を確保するために皮膚の細動脈が収縮するからです。
毛細血管の血流を増やすために
毛細血管は体中に張り巡らされていますが、そこの微小循環を良くするために、どんなことが考えられるのでしょうか?
1)細動脈までの血流を良くする
心臓から大・中・小動脈を経て細動脈まで血液が運ばれ、毛細血管・細静脈・小・中・大静脈と経て血液は再び心臓へと戻って行きますが、循環血液量の70%は静脈に分布しています。心臓は戻ってきた血液しか送り出せませんので、動脈への血液量を増やすには静脈に溜まっている血液をより多く心臓へと戻すことが必要となります。
静脈の血圧は非常に低いため、心臓へ血液を戻すのは①骨格筋ポンプ、②呼吸ポンプ、③心臓収縮のポンプ作用によって行われます。
①骨格筋ポンプ
静脈は動脈に比べて一般に壁が非常に薄く簡単に血管が押し潰れるようになっています。血管が潰れるとそこにあった血液は押し出されますが、四肢にある静脈内には静脈弁と呼ばれる内膜の薄いひだが一定間隔で付いていて、血液は心臓に向かってしか押し出されないようになっています。この血管を押し潰す働きをしているのが筋肉の動きです。筋肉が動くとそこにある静脈が押し潰され血管内の血液が心臓に向かって進んで行きます。これが骨格筋ポンプ作用です。
ですからまず四肢の筋肉をよく動かすことが大切です。上肢でしたら、手を心臓より上に挙げた状態でグウ、パーと握る運動や手をぶらぶら振るような運動が効果的です。下肢は立った状態で踵を上げ下げする運動や仰向けに寝て、踵が水平より高くなるように台の上に乗せて、足首を曲げ伸ばしする運動が効果的です。一度に長い時間やるよりも1回5分程度でいいので何度も行うほうが効果が出ます。また、四肢の静脈は筋肉の間を通っていますので、筋肉が硬いと血管が圧迫され血液の流れが悪くなります。筋肉を伸ばすストレッチで筋肉を柔らかくすることも効果的です。
②呼吸ポンプ、③心臓収縮のポンプ
骨格筋ポンプ作用により下肢から上がって血液は、呼吸による横隔膜の動きによって腹腔内の静脈まで進み、呼吸による胸郭と横隔膜の動きにより胸腔内の静脈まで進んで行きます。横隔膜は息を吸う時にはお腹が膨らむことで下にさがるので腹圧は高くなり、息を吐く時はお椀のようになってまた上にあがっていくので腹腔の圧力は下がります。胸腔は息を吸う時に広がるので内部の圧力は下がり、息を吐く時に戻ります。ですから息を吸う時に腹腔の静脈血は押されて上にあがり、圧力の下がっている胸腔の静脈へ吸い込まれるように入って行きます。息を吐く時には腹圧が下がるので下肢から腹腔内の静脈に吸い上げられます。これが呼吸ポンプの作用です。また胸腔内の静脈血は、心臓が拡張した時に心臓のポンプ作用によって吸い上げられ心臓へと入って行きます。
呼吸ポンプ作用をより強くするには息を吸い込む時は胸を広げ、お腹を膨らませるといった大きな呼吸することです。ゆっくり大きな呼吸をすることが血液の循環を良くします。姿勢が前かがみでは大きな呼吸は出来ませんから、姿勢を良くすることも大切です。
2)皮膚温を上げる
手足の皮膚の毛細血管は主に体温調節の働きをしているので、皮膚温が低いとそこからの熱消失を防ぐため毛細血管へ行く血液を減らします。特に体内部の熱が十分にない時は顕著に血流が悪くなります。ですから体内部の熱産生を促さなければなりませんが、その熱産生を大きく担っているのが筋肉です。筋肉が動く時に熱が生まれますので、筋肉が増え熱産生が増えると皮膚温も上がります。同じ筋肉でも、激しく強い運動で増える白筋ではなく、ゆっくりとした有酸素運動で増える赤筋でなければ熱産生能力が十分に高まりませんので、運動をする際は注意が必要です。
※ 有酸素運動とは、ウォーキング,ジョギング,サイクリング,スイミング等です。酸素と結び付いて燃焼する脂肪をエネルギーとします。また、赤筋とは、ゆっくりした運動を長く続けるのに向いた筋肉です。
外部から皮膚温を高くすることも皮膚の毛細血管の血流を良くする効果がありますので、外気温が低い時は皮膚が外気に触れないようにカバーするといいでしょう。案外見落とされているのが就寝時に布団から外に出ている首や頭です。後頚部にある外部温受容器は体温調節に大きく関わっているので、首を冷やさないようにすると体感温度が随分と違ってきます。また頭の皮膚には他の部分の皮膚に比べて単位面積当たり2倍の汗腺があるので、外気温が低いと熱消失がとても大きくなります。ですからナイトキャップのようなもので頭を覆うということも効果的です。
足裏の角質が足の皮膚温に大きく影響していることも分かってきました。角質のケアをして余分な角質を除去すると足裏の温度が2~4℃以上上がり、それが持続するそうです。角質が厚くなるとそこの部分の皮膚温が下がるため、熱消失を防ぐように毛細血管の血流が悪くなるためのようです。
(フットケアラボ調査による)
<毛細血管の血流量が増加し、形状に変化が発生した例 >
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文責:イシズカタツオ